第18回 ドッカランドのデコちゃん

「ドッカランドって、何だぁ?」
カモメが飛んで行った先の海の水平線あたりを、皆は見つめました。
すると、小さな点がゆっくり動いて、こちらへ向かっているのが分かりました。
ぐんぐん、ぐんぐん、小さな点が近づいて来ました。

それは島でしたが、とても小さくて、何だかまん丸のお団子、それも緑色なので草団子みたいに見えました。
やがて草団子の島は、ドコノモリの海岸にゴロリと横付けになりました。

眼の前の島を、皆はゆっくりと右から左へ、左から右へと眺めました。
それでもほんの少しの時間しかかかりませんでした。
島は、とっても小さかったのです。
女の子がひとり、島の階段を降りてきました。

「デコちゃん!」
チコちゃんは、大いに喜んで波打ち際まで駆けていきました。
それからふたりの女の子は、手をとりあったり抱きついたりしては、早口のおしゃべりを始めました。
ドコノモリの仲間たちは、あまりに早いふたりのおしゃべりを、ほとんど聞きとれませんでした。
それは、長い長いおしゃべりでした。
けれどとうとうふたりは、辛抱づよく待っている仲間たちに気がつきました。

「紹介するわね。この人、デコちゃん。私の友だちよ。」
「こんにちわ!皆さん、初めまして!デコです。」

ドコノモリ

デコちゃんは、大きな目で皆をみつめてにっこりしました。
「私のノート、見てくれた“おたづね者”のポスター、あったでしょ?私とチコちゃん、“おたづね者”なんですって。ふふふ。」
大きな眼が、皆の顔をぐるりと見渡しました。
皆は、ちょっと困ってしまいました。
「ふふふ。ごめんね。おどろいたでしょ。あとでゆっくりおはなしするわね。」
「その前に・・・ね。ドッカランドの見学しませんか?」
「わー、見学!行くよ、行くよ!」
実は皆、そのドッカランドという島の様子をとても見たかったのです。

わいわい言いながら、ドコノモリの仲間たちは、ぞろぞろと列をつくってドッカランドの階段を登って上陸したのです。
さて、ドッカランドはどのような島だったのでしょうね。

草団子みたいな丸い島に上陸すると・・・、眼につく樹という樹に色とりどりのバケツがぶらさがっていました。
そのほとんどが小さいバケツでしたので、遠くからみるとまるで花が咲いているようでした。
バケツの樹にバケツの花が咲いているみたいだなあと、グウヨはにやーっと笑いました。
デコちゃんも、ふふふと笑いました。
「そうよ。これで雨を集めるの。ドッカランドには川や池がないから、飲み水用に雨を集めているのよ。」
蛙のうっとりさんはそれを聞いて、デコちゃんは大変な暮らしをしているのだなぁと思いました。

「それからね・・・」とデコちゃんはいいました。
「オレンジの木もあるのよ。」といいました。
なるほど、すぐ近くに小さなオレンジの木がありました。
デコちゃんと同じくらいの背丈の木に、オレンジの実がぽっぽっとなっていました。
「オレンジを食べて、おかずのサカナをとってたべるの。モリもあるの。もぐってつかまえるのよ。」
今度は、サカナ好きのタバールがにやりと笑いました。

「ふん、ふん、なるほど・・・!」
クマオが感心してあちこち見ては、「ほう!」こちらを眺めては「うーむ」とつぶやいていました。
ミッケくんが、「クマオさん、この島おもしろいね。」と言うと、「いやいや、つい昔の仕事の癖が出て・・・」
「記者だったのですよ。見慣れないものがあったら、まずじっくり観察して・・・。それから調査ですなぁ。」

「詩人の前の仕事は記者だったのか!」
ミッケくんは、クマオを見ました。そしていつか、クマオのずっと昔のことを聞きたいなと思いました。
さて、皆があちらこちらを見ているうちに、子どもがやっとひとり入れるくらいの小屋に着きました。
そこは、デコちゃんの家でした。

赤い屋根に緑の木の壁、窓枠は黄色に塗ってあります。
中も見学していいということで、ひとりずつ順番に入れてもらいました。
全員が見終わったあと、デコちゃんは中に入って、外にいる皆に向かって「それでは・・・」と、窓のカーテンを閉めてしまいました。

ドコノモリ

あれ?どうしたのだろう・・・。
皆がひそひそ話していると、窓のカーテンが再びあきました。
するといつのまにか、チコちゃんの木のお人形が立っていました。

お人形は、「お集まりのしんし、しくじょの皆さまがた。本日は、ドッカランドの見学に、ようこそおいでくださいました。大変小さな島ではありますが、皆さまには十分ごたんのーいただけましたでしょうか?」
「さて、本日の見学会のおしまいは、デコちゃん一座の公演をお楽しみください。では、では・・・」

木のお人形の口上が終わると、ふたりのお人形が出てきました。
それが、デコちゃんとチコちゃんそっくりなので、皆は大笑いしました。

木琴が鳴りました。
いつのまにか、窓のそばにチコちゃんが立って歌いだしました。

ふたりのお人形は、チコちゃんの歌に合わせて踊りだしました。

「私たちは 星の子
双子の星
遠い遠い昔から
遠い遠い未来まで
ずっとずっと一緒

私たちは 星の子
私たちの願いは
夜空の下に眠る子どもたちに
幸せな朝が来ること

戦いが止みますように
飢えが なくなりますように
小さないのちたちが
尊ばれますように

けなされたり
いじめられたり
放っておかれたりしませんように

小さい命が
どうか尊ばれますように

私たちは 星の子
双子の星
夜が来るたびに
大人の夢に入り込む

子どもたちに 幸せな朝が来ることを
どうか大人たちよ
かなえて下さいと

私たちは 星の子
双子の星
遠い遠い昔から
遠い遠い未来まで
ずっとずっと一緒にいる

私たちの願いと誓いが
かなう時が来るまで」

双子の星の子の踊りが続き、いつのまにか銀紙の星が沢山窓辺に下がってきました。
下からはお花が顔を出し、歌に合わせて体を揺すりました。

パンニプッケルさんは、にっこり笑って見ていました。
パンニプッケルさんの体がぽうっと輝いて、銀紙の星のような小さな光がキラキラと生まれました。
プーニャは、隣にすわっているボーニャと赤ちゃんを、大事になでていました。

やがて歌が終わり、皆は力いっぱい拍手しました!
そして「アンコール!」と口々に言いました。

おうちの中のデコちゃんと外のチコちゃんは、頬をまっかにしてふたりで話していました。
そして、デコちゃんがおうちから出てきて、「ありがとう。今度は私が歌いますね。ドッカランドで航海している時、渡り鳥が教えてくれた歌です。」

そういって、デコちゃんは海の向こうを見つめながら歌ってくれました。
それは、こういう歌でした。

「私のふるさとは
海の調べが聴こえる町
暖かい潮風と
沖に見えるしんきろうに
見えない世界へのあこがれを培ってきた

いつも耳の奥には
海流に運ばれ漂っていく
沢山の生命とそのさざめきが
聴こえている

私のふるさとは
海の調べが聴こえる町
沢山の生命のさざめきを聴きながら
私も又
沖へと船を出す
私のもうひとつのふるさとの中へ
進んでいく」

ドコノモリの仲間たちは、眼を閉じてデコちゃんの歌を聴きました。
ざぶんざぶんという波頭が砕ける音が、遠く聴こえていました。
ひとり、クマオだけが眼をあけていました。
キラキラ光る瞳は、驚きと喜びで輝いていました。
「ああ・・・。これは、私が若者だった頃に作った詩だ・・・。」

2014.10.14
(つづく)

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