暮らしの片隅に、心がそっと入り込んでいける扉をこしらえておくことは、私の生まれついての習慣です。
『ドコデモドア』は別の世界へ行けるドアですけれど、私の扉は「ドコノモリ」へ直通します。
ドコノモリの広さがどのくらいあるのか、実はよくわかりません。
奥へ奥へと分け入ってみるのですけれど、森はとぎれることなく続いているようで、いつになったら森の終わりにたどりつけるか知れません。
倒れた樹を台座にして、大きな樹がそびえているのを見かけます。
朽ちた木を養分として育ったのでしょう。
その樹も年をとり、半ば生命を終えようとしていますが、からみあった枝の間に、淡い緑色の生命の芽ばえを抱いています。
この森は沢山の生命を育て、次の世代へと手渡しているのです。
死と生が重なりあった樹を見つめていると、私はまるで仏像の前にいるような気持ちになり、頭を垂れ眼を閉じるのです。
この森の先は、生命の始まりの場所なのかもしれません。
樹々たちは、生命の産声をはるか昔に聞いたことでしょう。
それを思い出してか、深いため息が森の奥から風となって吹いてきました。