おひざ

おひざ

わたしのおひざに
お人形をのせて
わたしは おかあさん

わたしのおひざに
生まれたばかりのおとうとを
のせて
わたしは おねえちゃん

わたしのおひざは
それからしばらく空っぽで
そのうち
誰かさんの枕になって

やがてわたしのおひざに
赤ちゃんひとり
わたしは おかあさん

それからそれから
赤ちゃんが
次から次へやってきて
わたしのおひざは
ずっと満員です

それでもいつか
誰もいなくなって
わたしのおひざは空っぽ

誰かさんが摘んできてくれた
野の花一輪
おひざに置いたけれど・・・

ある日
わたしのおひざに
赤ちゃんひとり
わたしは おばあちゃん

わたしのおひざに
ミルクのしみ
たべかけのビスケット
小さなお人形
坊やがこしらえてくれた
木の小鳥
川で拾ったつるつるの小石

わたしのおひざに
今はもうないけれど
わたしのおひざは
覚えている

ずっとずっと昔
わたしはおひざに
お人形をのせていた

私はおかあさんの
おひざにのっていた

わたしのおひざは
覚えている

おかあさんの
おひざを
覚えている

2013.5.27

「願」

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梢は 私たちのゆりかご
いのちの先っぽで
星々からの信号を受け取る
ふるえながら
でも じっと眼をそらさないで見つめている
私たちは いのちの先っぽで
育っていく
それぞれが ひとりで
ひとりっきりの眠りをとおして
育っていく
いつか 星々からの信号に
お返事できるようにと

2013.5.12

黄昏時の道

真実は死んだ
真実は死んだ

誰も通らない黄昏時の道
静かに夏の雨が降っている
畑も向かいの山も
ゆるやかに色を失い
眠りの時を迎えようとしている

誰も通らない黄昏時の道は
あちらから来て 向こうまで
長い川のように続いている

熱い道の上に
夏の雨が降る
谷間を流れる川のように
道は黒々と深々と
向こうまで続いていく

思い出したように 蛙が鳴き始めた
生まれてきたことを
生きていることを
思い出したように

誰も通らない黄昏時の道の先に
細いひと筋の道をつけるのは
一匹の蛙?
野の兎?
二足歩行の幼い子たち?

そうでありますように

そうなりますように

伝  言

祈る姿は 誰にも 見せない
祈る人のそばで
祈っている人を 見てはいけない

そばにいるなら
祈る人と共に 祈れ
瞳を閉じて 祈れ

いのちを生んだ 創造の源に
たったひとりで向き合い 祈れ

誰かのために 祈れ
誰かのための 私の 役割のために
祈れ

2011.5.15 記

冬のおとずれ

 

満月の晩、月の光に照らされて 雲が青黒い群れとなって
一面に拡がっていました。
それは羊の群れのようにも 北の海に漂う流氷の一団のようにも
みえました。

夜空がこのような姿をみせると、もうじき私たちのすむ所に雪が
ふり始めます。
或る朝、いつもより静かな気配に気付きとび起きると、
雪が はらはらと はらはらと 終わりのない夢のように
世界を白くしていました。

白い世界の中で 大人は忘れかけた夢を思い出し
子どもは 夢の続きを夢見ます。
雪だるまと共に

「寒くはないのですか?」と 子どもが雪だるまに尋ねました。

雪だるまは笑っています。
「あったかい手で、笑い声がはじける中で、
私は生まれたのだよ。
寒くなんかないさ。」

雪だるまの笑顔と
子どもの笑い声が
はらはらと はらはらと
記憶の雪野原に ふりつもります。

春の風が吹いてきた

春の風が吹いてきた

春の風が吹いてきた

強いぞ 強いぞ春の風は でっかいぞ !!
坊やがひとり 風の中
足を踏みしめ 両手をひろげ

風に向かって 言ったとさ
「負けないぞ !! かかってこい !!」

風と坊やの押し比べ
坊やは ううーんと 腰を落とし
後にはひかない 面構え

風は坊やの耳元で
「さあ どうだ ! さあ どうだ
どう どう どう !!」と大騒ぎ

坊やは進む

じりじりと じりじりと

とうとう行きどまりまで進んだら
今度は 風と追いかけっこ
もと来た道を 風に押されて
走る 走る
飛ぶように 転がるように
風と坊やの笑い声

どう どう どう ・・・・

草原食堂

草原食堂
草原食堂

 

本日のおすすめは

北風の運んできた

初秋限定のサイダー

ひんやり空気の泡入り

胸に沁み入る一杯をどうぞ

冷えた胸を

ごろんと草原に委ねて

夏の終わりのぬくもりを

お楽しみください

ひつじ雲の枕もご用意しております

鳴らせ鳴らせ ぼくの笛を

鳴らせ鳴らせ ぼくの笛を

鳴らせ 鳴らせ
ぼくの笛を

軽やかに歌うヒバリのように
ぼくの笛も 空へ向かって
舞い上がれ

ぼくは 全体ふいごとなって
体の中の 迷い子の風を
外へと押しだそう

迷い子の風よ
ぼくの笛を 鳴らせ 鳴らせ
歌となれ

風が きらりと色付くのは 外に光があるからだ

迷い子の風よ
大丈夫だよ
ぼくは 全体ふいごとなって
おまえを支える通底音を
ずっと奏で続けるよ

鳥に出会う日は

鳥に出会う日は

鳥に出会う日は
空はればれと
陽はあたたかく
水の流れは 音高らかで
足元の土は
苔と芽吹いたばかりの草々と
小さな花が咲いている

つがいの鴨が水面(みなも)を切って
飛び立っていく
雌の雉が
アジサイの葉陰から
姿を見せる

小さな鳥が
柳じいさんの古い枝で
遊んでいる

鳥に出会う日は
私も鳥のように
飛びたい日なのだろう

旅日記

旅日記
旅日記

見ることは 心に傷をつけること
それはうっすらとツメをたてることであったり
ていねいにナイフで線を刻み付けることであったり
瞬時に熱い光で焼き付けることであったりする

だから
空を飛ぶ鳥も
風に揺れる樹々も
赤子の泣く声も
優しい人の姿も
我が身の中に 全て収まっていくのだ

こんな小さな我が身の中に

しなびたりんごの肌を見ることで

崩れゆく老木のかたわらで
ひっそりと育ちゆく若木を見ることで

世界の広さと 深さと
長大な時間までもが
我が身の中に収まっていくのだ

こんな小さな我が身の中に

やがて
刻まれた印で
我が身がおおわれた時

私も又 宇宙の似姿となり
傷の記憶を携えて
空へと還っていくのだろう