楽の音

楽の音

月の光が洸々とドコノ森を照らしていました。
男の子がひとりバイオリンを弾いています。
いえ、弾いているつもりなのです。体を揺らし
弓と共に腕は気持ち良さそうに
大きく弦の上をすべっていきますが耳をすましても音は聴こえません。

男の子の前に うさぎが一匹
長い耳をぴんとたてて楽の音を聴いています。
聴こえてこない楽の音を
ウサギは赤い眼を閉じて
聴こうとしています。

月の光は洸々と真昼のように
男の子とウサギを照らしています。
やがて男の子は弓を下ろしました。

「ぼくね、今、大好きな曲を弾いたの。」
「気に入った?」
男の子は尋ねました。

ウサギは閉じていた赤い眼をあけました。

「私の中でも 笛が歌っていたの。
バイオリンに合わせて・・・
すてきだったわ。」

ウサギの長い耳が
たった今終わったばかりの楽の音を

思い出して
草のようになびきました。

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