女の子が両の手を大きく拡げて
空にむかってのばしていた
樹のように
ぐんと手をのばして
気持ち良さそうに
青い空にはたった今
雲が遠いところからの航海の途中で
横切るところ
ふと気がついて
下の女の子に声をかけた
おーい
遠い遠いところで
おまえにそっくりな子と
この森の木にそっくりな木を
見ましたよ
かわいそうに
そこはどこもかしこも
焼けてしまって
地面はどこまでも
さえぎるものがなく
かと言って空をゆく私の姿を
眺めている人はいなかった
いのちがどこにもない世界でしたよ
黒い影が地上を通りすぎる
それが私の姿だとわかっているからなおのこと
自分が地上に降り立って
誰かを捜している者のように思えてきて
私の影は焼け野原をさまよいました
やがて崩れ落ちた教会のそばで
私の影とはちがう
もうひとつの影を見たのです
空に向かって大きく手をさしのべている
黒焦げの木の影を
大きな大きな祈りのような手の姿を
していた
どうかお願いだから
なぜこのようなことが起こったのかを
教えておくれと
沢山のいのちが 黒焦げの手を空に向けて
さしのべている幻が 私には見えました
ああ・・・ 何ということを
私の涙は黒い雨となって
地上にふりました
と、そこに
黒い雨に打たれながら
両の手を空に向かって
さしのべている女の子を
私は見つけたのです
ああ、あの時の女の子!!
あの時のおまえは
ここで安らかな時を
すごしているのかい?
ここは戦場とつながっているけれど
絶対に侵されない場所
それをわかっている小さなおまえよ
どうぞ安らかにあらせたまえ
この場所があることを
人々が忘れ去ってしまう時こそ
人も森も私も
永遠に滅びるのだから
小さなおまえよ
この森と共に
生きつづけておくれ