こみあった葉の間から、お陽さまの光が暗い森に差し込んで来ました。
光はちらちらと揺れたり、明るい長いひものようになったり。
森の中は光がいろいろな形になって、あちらこちらを明るくしています。
そのお陽さまの光によく似ているけれど、
勝手に動いて木に登ったり、集まってぼんぼりのような仄明るい光の玉になるのが、パンニプッケルさんです。
パンニプッケルさんは、ひとりではありません。
パンニプッケルさんは、沢山います。
よちよち歩きの赤ちゃんが抱っこするぬいぐるみぐらいの大きさで、まん丸い鼻と小さな眼、赤ちゃんのボンネットに似た、ひらひらのふち飾りをした帽子をかぶって、そしてしっぽがあるのです。
夜の間降り続いた雨がやんで、今朝は清々しい青空が拡がっています。
パンニプッケルさんは、草の間を音をたてずに歩いていました。
スミレ、福寿草の林を通り抜けて、モミの木の赤ちゃんがたくさんいる所も通っていきました。
パンニプッケルさんは時々立ちどまって、黒い小さな鼻をふんふんさせました。
あ、わかったみたいです。急に早足になって進んでいくと・・・。
春蘭の花が咲いていました。
パンニプッケルさんは、にっこり花にほほえみかけました。
うすい緑色の花はついさっき咲いたばかりで、おしろいのような香りがしています。
春蘭はにっこり笑いました。
(お花が笑ったよ。)
パンニプッケルさんは(笑ったよ、笑ったよ)という嬉しいことを心の中に入れて、森の中を歩きました。
そしたら今度は、春リンドウの花に会いました。
春リンドウは、にっこり笑いました!!
(お花が笑ったよ。)
パンニプッケルさんはにっこりして(笑ったよ、笑ったよ)と、嬉しいことを又心の中に入れて歩きました。
パンニプッケルさんの嬉しいことがいっぱい入った心は、だんだんと明るさが増していくようでした。
パンニプッケルさんの体が、ぽおっと光っています。
歩いているとチコちゃんに会いました。
パンニプッケルはチコちゃんをみて、にっこり笑いました。
そして今度は、二人で歩きました。
立ちどまるパンニプッケルさんの前に、色々なお花が咲いていました。
お花はチコちゃんをみてにっこり笑いました。
(笑ったよ、お花が笑ったよ)
チコちゃんにはパンニプッケルさんの声がきこえたように思えました。
パンニプッケルさんはしゃべらないのです。
しゃべらないけれど、森の仲間たちは困りません。
黙っているパンニプッケルさんは、黙っているお花とおはなしします。
いっしょに笑ったりします。
パンニプッケルさんは、「黙っていることば」をいっぱいもっているようです。
そうです、お花も持っているのですね!!
パンニプッケルさんと一緒にお花が笑うのをみた夜、チコちゃんは不思議な夢をみました。
ぞっとするような闇の世界がありました。
そこにパンニプッケルさんがいました。
パンニプッケルさんは、カッと眼を開いて炎をあげているのです。
その炎は、闇の世界の中で明るく輝いています。
炎が小さくならないように、沢山のパンニプッケルさんが次々に炎の中に飛び込んでいきました。
明るさを増した炎は、100年も1000年も万年も輝いています。
チコちゃんは、次々とパンニプッケルさんが炎の中に飛び込んでいくのをみているうちに、パンニプッケルさんが皆いなくなってしまう!!と思いました。
そんなこと、いやだ!!
パンニプッケルさん、やめて!!と思った途端、パンニプッケルさんは(大丈夫だよ ボクは死なないよ)と言いました。
(ほら・・・)
大きな炎が夜空に細かく散らばり、沢山のパンニプッケルさんが星になって輝いています。
(ほらね)
パンニプッケルさんは、にっこりしました。
(ぼくは死なないよ)
空いっぱいのパンニプッケルさんは、やはりいつものように静かにそこにいました。
今朝もドコノモリの上には、青い空が拡がっています。
(おはよう)
チコちゃんは、パンニプッケルさんに無言でいってほほづりしました。
パンニプッケルさんの身体は、春の陽ざしのように暖かです。
チコちゃんは、パンニプッケルさんの心の中に入っていったような気がしました。
空のように広くて、空いっぱいにいるパンニプッケルさんの姿を思い出していました。
(おはよう) パンニプッケルさんも、黙って笑いました。
(次回へと続く)
「ドコノモリの仲間たち」第4回
2013.04.16