そして、急に止まったのです。
皆の耳の中が、しーんとしました。
それから「トーチャク、トーチャク」と鳥が鳴いたのです。
「どこについたのかなあ。」ミッケくんは森のはずれまで行ってみました。
ずっと前、プーニャが茨にとおせんぼされた所です。
ミッケくんが茨の繁みのすきまを腹ばいになってのぞいた時、小さな蛙と眼が合いました。
ドコノモリに最初にやってきたのは、小さな蛙でした。
蛙は、びっくりしたような、でもちょっとだけ、ほっとしたような顔をしていました。
「ボク、旅をしていたんだよ。そしたら、急にな大きな音がして地面が揺れたの。
トーチャク、トーチャクという声もしたよ。
ボクは、たどりついたの?」と蛙が言いました。
「うーん・・・。確かめに行こうか。」とミッケくんは言いました。
「おいで。池があるよ。」
ふたりは池に行きました。ドコノモリの奥には池があるのです。
池のずっと先には浮き山さんが見えます。
「ああ、何てきれいな所なんだろう!!」
蛙は、うっとりと池を眺めて言いました。
蛙は、池で暮らすことにしました。
お陽さまが、水面を照らす頃、蛙は起きだしてきます。
同じ頃、小さな風も目をさまします。
そして、水面にさざ波をたてて、「おはよう、おはよう」と蛙にあいさつしながら走り去っていくのでした。
キラキラとお陽さまの光が風の通ったあとに残りました。
蛙はそれを毎朝うっとりとして見ていました。
すてきだな
この世界
空にはチョウチョ
水の中にはアメンボ
すてきだな
この世界
たべものいっぱい
手をのばせば
おなかいっぱい
ボクは
しあわせの歌を歌うよ
ハスの葉の上で
ココロ ココロ
ココロ しあわせ
ヘビのことは
考えない
考えないったら 考えないったら
蛙は毎日歌を歌っていました。
新しい歌が沢山出来ました。
ある日、蛙が(歌を)歌い終わった時、誰かがパチパチと手をたたきました。
「だーれ?」と蛙が聞くと
「グーヨだよお」という声がしました。
「くーよだって!! げぇっ!! くわないで!!」
蛙が驚いて逃げようとすると
「ちがうよお。くーよじゃないよお。グーヨだよお。」とのんびりした声でグーヨが出て来ました。
「いい声だなあ。オイラの笛と一緒に歌ってくれないかなあ?ミッケはバイオリンをひくよお。プーニャはハープをひくよお。タバールはコンサティーナをひくよお。一緒にやろうよお。」と言ってにっこりしました。
こうして、ドコノモリの楽団に新しいメンバーが入ったのでした。
蛙は・・・この頃、皆は蛙のことを「うっとりさん」と言うようになっていました。
・・・毎日、毎日しあわせの歌を歌っているのでした。
ドコノモリの仲間は、うっとりさんの歌を聴くのが好きでした。
「又、あした・・・」夕暮れが近づくと皆それぞれのおうちへ帰っていきます。
「楽しかったなあ」
うっとりさんもうっとりしながら池のおうちに帰ります。
夜、うっとりさんは一人でした。
今夜は満月です。
うっとりさんはまん丸いお月様をうっとりとしながら眺めていました。
そうしたら、昔住んでいたまん丸い池のことを思い出しました。
お父さんやお母さんや兄弟たちと暮らしていたまん丸の池。
お月様みたいにきれいでした。
その池のきれいな水が、ある時、妙な味になってしまったのです。
お父さんもお母さんも兄弟たちもいなくなってしまいました。
うっとりさんは思います。
きれいな水に又出会ったよ。
友だち 沢山出来たよ。
ああこれ以上 しあわせなことって
あるだろうか
ボクは祈るよ
ボクは歌うよ
祈って歌うよ
いつまでもきれいな水であるように
友だちがしあわせであるように
うっとりさんは静かな声で祈って歌いました。
その声は寝ている皆の夢の中にもやさしく響いていきました。
ドコノモリは、じっと聞いていました。
うっとりさんのすわっている大きな岩も聞いていました。
風は花の甘い香りをそっと、うっとりさんに送って、うっとりさんをやさしくやさしくなでました。
静かな、きれいな夜でした。
(次回へと続く)
「ドコノモリの仲間たち」第3回
2013.04.07
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