ミッケくんは、森はずれ・森の入口のところで、ずっとしゃがんでいました。
今夜は、とても静かな夜です。
いつもだったら、ヨタカやウソが鳴いているのですが、何だかとてもまぶたが重たくなるような静けさが、ドコノモリを包んでいました。
静かな深い霧の中で、ミッケくんは声を聞いたように思いました。
「私の近くへ
私の近くへ おいで
近くなら
私は あなたを守ってあげられるから
おいで
私の子どもたち」
ミッケくんは、ハッとしました。
浮き山さんだ!
浮き山さんが呼んでいる!
森のはずれ・森の入口から
霧に守られて、ウサギ、小鳥、虫などが
入ってきました。
ミッケくんは黙って森の奥の方を指さして見せました。
皆、ほっとしたように黙って森の奥の方へ姿を消していきました。
カメの家族が大汗をかきながら森の奥へ歩いていくのを見送って、ミッケくんもそろそろ帰ろうかな?と思った時、森のはずれの茨の向こうで何か気配がありました。
「『行き止まり。』何でこんな看板があるのだろう。
茨があるなら切り払って先へ行けばよいものを。
いやいや待て。ちがうぞ。
茨の先にあるものを、ひょっとして・・・
茨よお前は、守っているのだろう?
茨の先にあるものは・・・。
どうか、この茨の先は人の入れない、美しい自然であるように・・・。」
ミッケくんは、ドキドキしながら茨の向こう側をのぞきました。
丈の長い編み上げ靴だけ見えました。
編み上げ靴の主は、深いため息をついてそして見えなくなりました。
ミッケくんも、なぜか深いため息をついて、森の奥へ帰って行きました。
霧はますます深くなり、やがて真っ暗な夜になりました。
浮き山さんは、闇でドコノモリを包みました。
ドコノモリの仲間たちや沢山の生き物たちは、安心してそのあたたかな闇の中で眠りました。
浮き山さんは、森の子どもたちを寝かしつけたあと、そっと出発しました。
本当に静かに、別な所へ行ったのですよ。
浮き山さんが別な所へ移ったと皆が気がついたのは、日の出、日の入りの方角が変わったからなのです。
皆は、「あれー・・・・!」とびっくりしたそうですよ。
(つづく)第9回
2013.6.25